横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校同窓会

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一数学教師の思い出

一数学教師の思い出

寺田 誠一


 私は数学の教師としては 8期生から23期生迄 学級担任としては9、12、15、17、20の各期を受け持たせて頂きました。
 この間の思い出は多々ございますが ここでは数学の教師として心に残っている事柄を中心に述べさせていただきたいと思います。

 私は大学の数学科を卒業して 直ちに公立中学校に3年間勤務した後の昭和31年に付属中に参りました。
 着任しての驚きは 自由 闊達 感性の豊かさ 育ちの良さ 柔軟な思考力を持った 正に心身共にのびのびとした生徒が沢山いることと この対極とも言える 校舎 教室の貧弱さでした。強い風が吹くと砂埃と一緒に時には天井から家だにが落ちて来るほどでした。

 教室の物的環境の粗末さなどなんのその 生徒達の表情は生き生き 学習の意欲に満ちあふれ 教師の方が煽られるほどでした。
 数学につきましては苦手な生徒が若干おりましたが 多くの生徒が積極的に取り組み私の未熟な指導にかかわらず標準学習検査等では常に好成績を得ていました。

 私は生徒が中学生なりに「数学のよさ・楽しさ」を少しでも感得できればということを念頭に指導法を考えてまいりました。

 1、直観と論証の相互作用を大切にしながら生徒の自然な思考の流れに沿って授業を展開いたしました。
  そのために常に何通りかの指導方法を考えておき生徒の思考の多様性に対応いたしました。
  幾何(図形)の論証等に当たっては完結に至らなくても よい発想 直観に対しては高く評価しました。(数学の総合点は低くとも部分的にきらっと光る 教師を超える直観力を発揮す る生徒に出会った時の感動は一入であり この時教師自身が磨かれました。)

 2、興味があって先に進みたい生徒には参考書等を紹介して 自発的に進ませるが授業には堅実に取り組ませました。(授業の中核を整理させたり 授業時とは異なる解法の発見に努めさせたりしました。)

以上思いつくままに指導上のモットーの一部を述べてみましたが なかなかにその実が挙がらず生徒達を戸惑わせる面が多々あったことと思います。にもかかわらず生徒は持ち前の賢さとねばり強さで理解を進めてくれました。感謝の至りです。

 指導の過程で生徒から気付かせてもらったことの何と多かったことでしょう。
 正に 教えながら教えられ 生徒の成長は同時に教師の成長でもありました。

付属中学校の同窓会 同期会等にご招待されての卒業生の言葉に

「わが子の数学の証明指導を先生に教わった通りにしています。」
「数学のノートのとり方 今もよく覚えています。」
「論証の必要性の具体例示 楽しかったです。」
「黒板に大きくフリーハンドで描いた円の正確さ 覚えています。」
・・・

 等の嬉しい 老教師への温かい思いやりを感じる時 付属中学在職14年間の数学教師としての冥利に心底より浸ることが出来ます。 有難うございました。

数学の 付中の教師 14年
    師弟の切磋 ありて楽しき

手前勝手なことばかり書かせて頂きました。どうか一人の曾ての数学教師のたわごとと思っ
て お読み流し下されば幸いです。

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