横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校同窓会

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インタビュー 第10回 紀田 順一郎さん (2期)

1.その1

附属中学の環境は非常に悪かったと聞いていますが。

2期生は昭和23年入学だった。校舎は後で知ったのだがPTAが建てた本校の横に隣接した2階建ての狭い木造建物だった。夏は完全暖房でね。本校舎は女子師範が入っていたが、空襲のあとで雨漏りがひどかった。

ここで中学時代の読書録や新聞などをテーブルの上に広げて紹介してくれました。当時の読書について熱く語ってくれました。

附属中学にいるときから近代文学入門という形で入っていきましたからね。 読書録を秋田先生につけろと言われて、その当時では中学では珍しいことだったのだが、一人の作家を決めて読むということをやった。わたしはたまたま机の上にあった芥川龍之介を選んだのだけれど。中には寺田君というひょうきんな男がいて、彼は近松門左衛門をやるというのがいた。

一人の作家をやるというのは難しくてね。最初は「少年倶楽部」から入っていった。他の同級生は岩波文庫を読んでいいるんですよね。人は何で生きるかとかね。これはいけないなと思っていたら、秋田先生から読書録に赤ペンで「もっと休み中に広く深く読書できるように」と書かれてしまった。50年後のいまでも忘れないことですよ。 当時は本が手に入らなかったけれども、手に入ったものは自分なりに一生懸命に努力して読んでいた。それが附属の時代での収穫であったと今でも思いますね。

入ったばかりのときには、図画の先生であった添田先生が国語も担当していた。添田先生の指導で大きな模造紙に罫線を引いて、そこに墨で作家名・代表作・年代を書いた。それを明治編、大正編、昭和編とグループに分けて書いて、担当の矢島先生に見せに言ったのだが、そうしたら先生が「これはねー」と苦笑いするんですよ。なんと「島崎藤村」を「島崎島村」と書いてしまったんですね。これは今でも忘れられません。そしてこの模造紙を後ろに張り出した。そうすると「芥川龍之介は羅生門か」というように何気なく見るので、本屋へ行っても文庫本で「これか」と手にとる。このことによってなんとなくちょっと近くなるので、これは良い教育だった。

しかしクラス会で同級生に会ったときに、ああいうことを習った、こういうことを習ったと話してもみんな忘れているんですよ。先生のお説教や講堂での話しなんてみんな忘れている。だけどそれはなんとなくいろいろな形でつながってきているとすれば忘れてもいいが、僕にとっては思い出である。

中学時代にちょっとしたきっかけをつかめていないと、高校・大学にいって読書はできないですね。いきなりだと漠然としていて受験勉強もあるし・・・。 友達に恵まれてうまく刺激を受けたのが学風となって生きている。いまだにクラス会をよくやるが、たった3年間一緒にいただけなのに、どんなことでも話せるんですよ。つまり同じ空気を吸っていたことやここからここまでは絶対分かり合えるということが無意識にあるからだということが大事だね。最初部屋に入ったときは誰だか分からないけれどね。(笑い)

中学時代の読書教育がたいへん役に立った。文庫本はあれだけ長いと面白さというものがある。本は面白くなければという考えが頭の中の一方にある。だからSFやミステリーを書いている。また評論でも相手が読まないような文は書いてもしょうがない。専門的な論文に限れば中2階の本といっている。書店の1階はベストセラーが有り、2階が専門書が有る。中2階に教養書が有ると考えていて、そこで仕事をしていこうという意識が芽生えたのです。

いま大学の教養学部が軒並み無くなってしまっているが、本当は大事なのではないですか。

教養学部を無くすことには大反対である。本当の意味での教養というものを考えていないからだと思う。「この人は何か違うな」と思わせるような教養が無いとただの実用的な専門家だけになってしまう。

毎日授業の1時間目の初めに3分間スピーチをやらされた。同級生の一人が「同胞(きょうだい)」という当時みんなが知っていることを題材にして話したが、うまい話だなと感心させられたことをよく覚えている。ただ自分がそのとき何についてしゃべったかはよく覚えていないのだが。 何を話せばよいのかその朝悩む。学校まで歩いて通学していたのだが、その15分間を使って考えていた。それが習慣となって、今でもコラムの内容が15分間で思い浮かぶ。附属の時代に培ったことで非常に役立っていると思いますよ。

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